トップ画:佐脇嵩之『百怪図巻』江戸時代(1737年)- scanned from ISBN 4-3360-4187-3., パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=5510166による
妖怪「ろくろ首」は現在では、首が長く伸びる女性妖怪として知られています。
しかし、江戸時代の怪談や古い文献をたどると、実は首だけが胴体から離れて飛び回る「抜け首」が本来の姿として伝わっていました。
ろくろ首は日本の怪談文化の中で発展した妖怪であり、時代とともに姿を変えてきた興味深い存在です。
「ろくろ首」とはどんな妖怪?
日本の妖怪の中でも知名度の高い存在の「ろくろ首」。
現在の「ろくろ首」は以下のようなイメージがあります。
- 昼間は普通の人間と変わらない姿をしている
- 夜になると首が長く伸びる女の妖怪
- 眠っている間に首だけがにゅ~っと長く伸びて歩き回る
「首が長く伸びる女性の妖怪」というイメージが一般的ですが、古い文献をたどると、もともとは首が抜けて飛ぶ「抜け首」の伝承が中心だったことが分かっています。
ろくろ首と「飛頭蛮(ひとうばん)」

江戸時代の妖怪画集『画図百鬼夜行』では、鳥山石燕が「飛頭蛮」の名でろくろ首を描いています。
ろくろ首の漢字表記に「飛頭蛮」が用いられています。

飛頭蛮(ひとうばん)って何❓
飛頭蛮(ひとうばん)とは、中国の妖怪。
古典の記述によれば、通常は人間の姿と変わりないが、夜になると首(頭部)だけが胴体から離れて空中を飛び回るものとされる。
『古今百物語評判』のろくろ首
絶岸和尚肥後にて轆轤首を見給ふ事
山岡 元隣『古今百物語評判』より
「絶岸和尚肥後にて轆轤首を見給ふ事」と題し、肥後国(熊本県)の宿に泊まった絶岸和尚という僧が、宿の女房の首が抜けて宙を舞い、次の日に元に戻った女の首の周りに筋があったと語られている。
このタイプは中国の「飛頭蛮(ひとうばん)」の伝承との関係が指摘されています。
首が抜けて、首のまわりに筋があるという伝承は日本古来のものではなく、中国からの伝承であるとされています。
『南方異物誌』にも、「ろくろ首にはうなじに赤い傷痕があり夜になると体から抜け出し、暁になると戻ってきてもとの体になる。」とある。
ろくろ首には、大きく分けて二つの姿がある!

実はろくろ首には
2つのタイプがあるんです!
その1:首が伸びるタイプ
現在もっとも知られている姿です。
夜になると首が異常に長く伸び、遠くをのぞいたり、行灯(あんどん)の油をなめたりするといわれています。
日中は普通の人間と変わらず、本人も自覚がない場合が多いとされています。
『甲子夜話』の「ろくろ首」
首が長く伸びるろくろ首の話は、『甲子夜話』など江戸後期の文献に見られます。
拳法家の西尾七兵衛が召し使っている女中は轆轤首だといわれ、七兵衛の弟子の能勢源蔵という侍は、その事実を確かめるべく女中の寝室を秘かにうかがった。ある夜、かの女中が寝ていると、胸のあたりから何かが立ち昇り始める。よく見ると釜から水蒸気が昇るようで、それが次第に濃くなって肩から上の頭部が見えなくなった。すると見る間に首が欄間あたりまで伸び上がり、ちょうどさらし首のようであった。そのあり様に驚いたこちらの気配に気が付いたのか、女中が寝返りをすると、その水蒸気のようなものは消え、首も正常に肩に収まっていた。その事があって七兵衛は女中に暇をとらさせたが、女中は泣きながら「私は奉公に縁がありません。仕える所は全て任期をまたずに暇を出されてしまうのです。」と言って立ち去ったという。轆轤首はその人の首に必ず紫筋(首を一周する輪のような紫色のあざ)というものがあるが、この女中は青ざめた顔色のほか常人と変わる所はなかった。
松浦静山『甲子夜話』巻八より
民俗学者の中には、もともとの「抜け首」が絵画などの影響を受けて「首が伸びる妖怪」として定着していったと考える研究者もいます。
その2:首が抜けて飛ぶ「抜け首」タイプ
古い怪談に多く登場する姿です。
夜になると首が胴体から離れ、空中を飛び回ります。
『曾呂利物語』の「ろくろ首」

ろくろ首の古い伝承として有名なのが、江戸時代初期の怪談集『曾呂利物語』に収録された話です。
越前国(現在の福井県)の男が夜道を歩いていると、女性の首だけが空中を飛んでいました。
男が刀を抜いて追いかけると、その首は一軒の家へ飛び込みます。
家の中では女性が目を覚まし、
「刀を持った男に追いかけられる恐ろしい夢を見た」
と話していました。
この話では、ろくろ首は妖怪というより、魂が身体を離れる「離魂(りこん)」の一種として描かれています。
『諸国百物語』の「ろくろ首」

江戸時代の怪談集『諸国百物語』にも、同様の話が収録されています。
首が抜けて飛ぶ女性が発見され、自らの罪を恥じて出家したという内容で、仏教的な教訓が込められています。
ろくろ首の伝承が伝わる地域
ろくろ首は特定の地域だけで語られる妖怪ではなく、江戸時代の怪談文学を通じて全国的に知られるようになりました。
福井県(旧越前国)
『曾呂利物語』や『諸国百物語』に登場する有名なろくろ首伝承の舞台です。
ろくろ首伝承を語るうえで欠かせない地域といえます。
熊本県(旧肥後国)
『古今百物語評判』には、肥後国の宿屋で首が抜けて飛ぶ女性の話が収録されています。
香川県
さぬき市周辺には、首に輪のような痕のある女性をろくろ首とする伝承が記録されています。
奈良県(吉野山周辺)
江戸時代の随筆『中陵漫録』には、吉野山の奥地に「ろくろ首村」があるという伝聞が記されています。
東京都(江戸)
文化七年(1810年)、轆轤首は江戸の上野山で見世物にかかったのを始めとして、見世物の一つとして人気者となった。
現在の「お化け屋敷」でも安定の人気です。
その頃、轆轤首が遊女屋の美女が化けたものとも語られている。
人の寝静まった夜更けに、遊客の睡眠をうかがって、添い寝していた遊女が首をスルスルと伸ばし、行灯の油をなめたという怪談話もあったようです。
まとめ
ろくろ首は、日本を代表する妖怪の一つです。
現在では「首が長く伸びる妖怪」として知られていますが、古い文献では首が胴体から離れて飛ぶ「抜け首」として描かれることが多くありました。
その背景には、中国の飛頭蛮伝承や、日本の離魂信仰、江戸時代の怪談文化が影響していると考えられています。
ろくろ首の姿の変化をたどることで、日本人が怪異をどのように想像し、語り継いできたのかを知ることができます。
参考文献
一次資料・古典
・山岡元隣『古今百物語評判』江戸期怪談本(1686年)
民俗資料・地方伝承
・柳田國男監修『民俗学辞典』東京堂出版、1951年
・柳田國男監修『総合日本民俗語彙』平凡社、1956年
研究書・事典類
・多田克己・京極夏彦 編『妖怪図巻』国書刊行会、2000年
図像資料(妖怪画)
・鳥山石燕『画図百鬼夜行』1776年
・佐脇嵩之『百怪図巻』江戸時代(1737年)
・『曾呂利物語』巻一「女の妄念迷ひ歩く事」
・『諸国百物語』「ゑちぜんの国府中ろくろ首の事」
データベース
・国際日本文化研究センター「怪異・妖怪伝承データベース」
・Wikipedia「ろくろ首」「飛頭蛮」

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